Colorful Days

様々な事に興味がある筆者の日々

【10分で読める短編小説】初夏の朝に妖精と出会いました。

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あらすじ:いつもいつも恥ずかしいテストの点数を取っていた隆一は今度のテストはせめて、恥ずかしくない点数を取ろうと、テレビ等の誘惑の少ない深夜からのテスト勉強を始める事を決意する。
勉強の休憩がてら早朝ランニングを行っていた時にまるで妖精の様な可愛らしい女の子と出会う事となったが……

 

朝の番組は最高で最悪だ。

 勉強嫌いな俺はどうしても誘惑に負けてしまう。学校から帰ってきて勉強をしようと思ってもバラエティーにドラマ、スポーツニュースと俺に興味のある番組で満載だからだ。

 

 かといってテレビをつけないのはなんだか寂しいような気がしてしまい、つけずにはいられない。

 

 そこで俺は考えた。テレビをつけてもある程度勉強に集中ができる方法を。そこで浮かんだ案は深夜から朝にかけての勉強だった。

 

 帰ってきて夕食を食べ、そのまますぐに寝る。そして深夜に起床して勉強を始める。

 

 そもそも何故勉強に集中しなければならないのか。俺はそんなに勉強家な中学生ではない。単なるテスト勉強。四十点以下なら親に怒られるのが嫌だというのと、採点する教師が赤ペンを使ってでかく点数を書くもんだから、テストを受け取ってサッと隠すように丸めても友人に見られてしまい恥ずかしい思いをしたのだ。

 

 せめて恥ずかしくない点数を取ろうと思い、こうやってテスト勉強を始めようと深夜から勉強を始めることにした、慣れてくればそのまま学校に行って試験を受ける。他の皆と違い、つい先程まで勉強していたのだからスムーズに脳みそも働いてくれ、問題を解くことができるだろう……

 

 勉強を開始すると同時にテレビをつけてみた。

 

 ――やはり、思ったとおりだ。天気予報しかやっていない。最初こそは明日――いや、今日の天気は、と確認してみたものの、リピートしているのでさすがに飽きてしまう。

 

 テレビに集中しきってしまう俺には勉強中に関してはこのテレビ番組がとても良かった。

 

 苦手な数学のテキスト、練習問題を何度かやってみたものの、飽きてしまい、英語の単語を一つでも覚えようかとも思ったが、元々集中力のない俺は疲れてきてしまった。

 

 そこで休憩がてらテレビのチャンネルを回してみるとニュース番組がやっていた。

 

 ちょうどスポーツニュースやっていて、見ていると、マラソン選手のレース結果みたいのものが映し出されていた。走りきった後のインタビューは笑顔でとても幸せそうな様子だった。

 

 そこで何を思ったのか「俺も走ってみたい!」そんな衝動に駆られた。単に勉強に飽きただけなんだと思う。

 

 けど、こんな早朝を走ってみたらきっと優勝とかそんなんじゃなくても空気が澄んでいて気持ち良いに違いないと思ったのだった。

 

 思いついたら即行動。勉強から開放されてしまった集中力のない俺はノリノリでジャージに着替え始める。

 

 ふと、そこで気づいた事がある、玄関には鈴が設置してあって開け閉めをしたら鳴る仕組みだ。通常通り開け閉めなんかしたらきっと音を出して親を起こし「こんな時間にどこに行くんだ」なんて言われてしまう。

 

 俺は玄関でそっと腰を下ろし丁寧に靴をゆっくり履きランニングをする為しっかりと靴紐を締めた。

 

 玄関には多少の砂があり、それを靴との摩擦で音を立ててしまわぬよう、ふとももから足を上げゆっくりと歩かねばならない。

 

 玄関のドアを開ける際には、細心の注意を払い鈴を鳴らさぬようゆっくりと開け、閉める……家を出る事はできたがまだ気を抜いてはならない。砂利や門を開けた時に音を出してはいけない。

 

 ふぅーと息を細め、まるで悪い事をしているような高揚感が体に流れる血流が強く感じ、なんともたまらなく感じた。

 

 無事に家を出ることに成功し、準備運動も兼ねてしばらく歩いてみた。

 

 やはり思った通り、空気は澄んでいて気持ちが良かった。初夏と言う事もあり、昼は結構暑いのだが、この時間帯はまだそう暑くはない。


 しばらく歩き二車線道路に出た。普段ならこの道は車も結構通るのだが、さすがにこの時間は車も人も通らない。せっかくなのでこの道路の真ん中で準備体操をすることにした。

 

 しばらく屈伸等をしてみたが未だに車は通らない……調子に乗って道路に座りこみ、ストレッチを行った。

 

 まずこんな姿を誰かが見たら完全に変人扱いだ。だが初夏の早朝、涼しくて空気も美味い。わかる人にはきっとわかってくれるだろう……


 しばらくの間二車線道路を堪能し本来の目的である、ランニングを行う事にした。

 

 道は団地から県道に繋がる坂道できつ過ぎず緩過ぎず丁度良いコースだった。

 

 その道を何本か行ったり来たりしてみた。時には刺激を求めてダッシュも行ってみたが、やはり坂道ということもあり息切れをしてしまうほど俺にとってきつかった……

 

 疲れ切った俺は腰を曲げ手を膝につき、虫の息だった。

 

 スタミナがないなぁと痛感しながらも再び背筋を伸ばして徒歩よりも少し速いペースでジョギングを始めた。

 


 そんな時、突然どこからか声が聞こえたのだった。

 

「――こんばんわ」

 

 そんな声が聞こえた気がしたのだった。

 

 今まで人一人としても見ていなかったのにも関わらずいきなり声が聞こえたのだったから、その声がどこから聞こえてくるものなのか気になりだし辺りを見渡した。

 

 だが、その声の主はなかなか見あたらない。空耳? かと思いまた走り直そうと思ったその時……

 

「ぇっと……こんばんわじゃないか……こんにちわ!」

 

 また聞こえた!? しかも訂正をして話直したような気がする……また気になって辺りを見渡した。

 

 そしたらその声の正体は背後にいたのだった。

 

「――ぅわぁっ!」

 

 思わずびっくりしてしまい声を出してしまった。

 

「あ、ごめんなさい。こんな時間に人がいるのが珍しかったのでご挨拶をと思ったんですが……なんだか驚かせてしまったみたいですね」

 

 俺としたことが……男だっていうのに声を出して驚いてしまった。とても情けなく滑稽だ。

 

「あ、いや、大丈夫!」

 

 それなのにどうしてこんな時間に……? でも実際に気になるところはそんなところよりも挨拶をしてきたのかってところ。

 

 普通こんな時間に人に会ったら挨拶はするものなのだろうか。俺自身そんな挨拶する人間でもないがこの時間に挨拶をすることがものすごく珍しく感じた。

 

 それに、声をかけてきた彼女はなんとも可愛らしい容姿で、黒く長い髪の毛は朝焼けの光に反射して輝いている。肌は夏の入道雲の様に白く美しく、瞳は普通の女の子に比べ、まつげが長く目が大きく際立っている。それだけでも可愛らしいのだが背丈は小さく、水色のワンピースを身に纏っていて、思わず妖精かと勘違いしてしまうくらいだった。

 

「んねぇ、君はこんな時間になにをしてるの?」

 

 単なる挨拶かと思ったら彼女は俺にそう訪ねてきた。でも、何をしてるのか気になるのはこちらも一緒だ。だから俺も彼女に聞いてみようと思った。

 

「ランニングさ。君は何をしていたの?」

 

「散歩……かな?」

 

 ――散歩? 犬も連れていない。一人で?

 

「散歩? 一人でしていたの?」

 

「そうだけど。変かな? 君も一人でランニングしていたの?」

 

「まぁ……俺も一人だけど」

 

「じゃあさ、一緒に散歩しようよっ!」

 

「えっ、ぁ、ちょっと……」

 

 急に手を引っ張られた。そんな手を引く彼女に俺は抵抗はしない。なぜだかこんな時間に散歩をする不思議な彼女と一緒にいたいと思った。

 

 彼女はおそらく俺と同じぐらいな年代だろう。だからこそ興味が湧いたし、彼女のような可愛らしい女の子に手を引かれたり、繋いだ事はなかったから。

 

 なんだか不思議で可憐でちょっと強引な彼女に少しだが興味が湧いたのであった。

 

「んねぇ、どこに行くのさ!」

 

「ん~知ってると思うけど、一応秘密!」

 

 一体どこへ連れて行くのだというのだろう。ここ辺り一帯は地元だ。俺に知らない場所であるわけはない。しばらく彼女とは会話をすることはなく彼女の手に引かれそのまま素直について行くことにした。

 


 しばらくすると見えてきたのは公園だった。そこの公園は大きな滑り台があり、人が並んで滑ろうと思えば二十人は並んで滑れるぐらいの大きさだ。もちろん地元住民である俺は知っている場所だ。

 

 彼女は俺を公園につれてきて、滑り台のところにいくと思いきや、ブランコのところへやってきた。

 

「なぜブランコに? って思ったでしょ?」

 

 ――図星である。この公園のブランコは他の公園と同じ様なブランコだから。

 

「いや、まぁ、そうだね。この公園は滑り台が有名だから」

 

「まぁ滑り台もいいんだけどね。けど、滑っておしまいでしょ? けどブランコってずっと続けられるから……」

 

「んまぁそうだけどね」

 

「ブランコだっておもしろいんだよ! やってみなよ」

 

 彼女は一足先にブランコに乗り始めた。棒立ちしているのもなんだから俺もブランコに乗る。

 

「――気持ちいい!」

 

 彼女は気持ちよさそうにブランコに乗っている。

 

 俺はブランコに乗るのなんて何年ぶりだろう……

 

 久しぶりにブランコに乗ってみるが足を伸ばしたり縮めたりしてブランコを動かそうとするが成長で伸びた足は地面を擦ってしまう。なかなかうまくブランコを動かすことができない。

 

「久しぶりに乗るから苦戦してるのかな?」

 

 彼女は俺が足を擦っていることに気づいていない様子だ。

 

 彼女が乗るブランコは既に大きく弧を描いていた。

 

 ――負けてられない。変な負けん気が俺を駆り立てた。

 

 足を伸ばして縮める時に足を擦ってしまう。だから地面にブランコが近づくちょっと前に足を縮める……予想通り足を擦ることなくブランコを動かし始めた。

 

「ぅう……お……」

 

 あまりにも久しぶりに乗るブランコは遠心力で体内の臓器が動くような変な気がした。

 

 だがブランコはとても気持ちいい風を俺にぶつけてくれ、早朝の気持ちよさをより一層感じさせてくれたのだった。

 

「ね! ブランコも楽しいでしょ!?」

 

「確かに。楽しいな。久しぶりに乗ったら臓器が動くような気がしたよ」

 

「なっにそれぇ~!」

 

 彼女はケラケラと笑っている。

 

 そもそも気になったが彼女については何もわからない。だんだん仲良くなってきたし色々聞いてみたいと思った。

 

「ねぇ、君は年いくつ?」

 

「いくつに見える?」

 

「ん~十四歳とか?」

 

「ぶっぶぅ~! 十四歳!」

 

「なんだよ、当たってるじゃないか」

 

 なんだかつまらないジョークも言うんだな……

 

「へへっ! じゃあ君はいくつなの?」

 

「俺も十四歳だよ。名前はなんていうの?」

 

「ふりこ」

 

「ふりこ? 珍しい名前だね。どんな漢字なの?」

 

「ひらがなだから漢字はないよ。君は?」

 

「隆一だよ」

 

「ふっつぅ~」

 

「普通で悪かったな」

 

 このご時世変わった名前や特徴的な名前、当て字を使った名前が溢れているが俺の名前は至って普通だ。変わった名前を聞くとどんな漢字を使っているのか聞くことが多いのだけれども、彼女の場合はひらがならしい。

 

「じゃあさ、どこの学校?」

 

「それは秘密だよ」

 

「――え!? なんで?」

 

「学校を教えるとなんだか恥ずかしいからもっと仲良くなったら教えてあげるよ」

 

「恥ずかしいものなのか? まぁいいけどさ」

 

 言いたくないなら仕方がないよな。確かに学校がわかると知っている人がいたりして変に共通点ができたりしてそれがよかったりよくなかったりするから。

 

「――よっと!」

 

 ふりこはブランコから勢いよく飛び降り、ブランコを囲んでいるフェンスを飛び越えていった。

 

「それじゃあ時間だから私は帰るね!」

 

「――あぁわかった」

 

 彼女は駆け足で公園から去っていった。

 

 もう時間って……時間がわかるのか? この公園には時計が設置されておらず俺には今が何時なのかがわからない。

 

 もしかして学校を聞いたのがよくなかったかな。けどそんなにしつこく聞いてはいないけど……本当に時間がきて帰ってしまったのであればいいけど。

 

 俺も親が起きる前に家にいなければならないので家に帰ることにした。

 

 ふりこはまた明日もいるのだろうか……今日家を出たのが四時くらいだったか……四時くらいに明日も行ってみよう。

 


 しばらくして家に着いた。

 

 出てきたときと一緒、ゆっくりと玄関のドアを開け鈴がならないように慎重にドアを閉める。

 

「ふぅ~……」

 

 浅く息を漏らした。

 

 さてと、今は何時だ? ……四時? 俺は出る時に正確に時間を見てきたわけではないが、今は四時ということは一体何時に出たんだ……それにふりこと一緒にいた時間はそう長くはなかったような気がするからだいたい三時前か? でもそれだと早朝にしてはどちらかというと夜にも感じる……

 


 色々悩んだがよくわからなく、再び勉強する気も起きなかったので朝食ができるまで仮眠を取ることにした。

 


 次の日の深夜またランニングを行うことにした。実際にはランニング目的と言うよりも、またあの子に会いたい。その気持ちの方が強かった。

 

 昨日と同じ坂道に行ってみたが、ふりこの姿は見あたらない……もしや、既に公園に行っているのではないかと思い、俺は公園へと向かう。

 


 期待を胸にして公園に着いたが、ブランコにはふりこの姿はなかった。もしかすると今回はブランコにはいないだけかもしれないと思い、公園中歩いてみたがふりこはいなかった。

 

 仕方なく、せっかく着たのにすぐに帰ってしまうと行き違いになってしまう可能性もあったので俺はブランコに乗ることにした。

 

 乗ってみるとやはり、普通に乗ると足を擦ってしまいうまく漕ぐことはできない。やはり、これは子供の遊具なんだなと痛感した。確かに子供と一緒に遊びに来ている親で子供と一緒にブランコに乗っている親は見たことがないのはもしかするとこれが原因の一つなのかもしれないな。

 


 しばらく待ってみても、ふりこは現れることはなかった。もしかすると、昨日来たのはほんの偶然だったのかもしれないな……

 

 この日は諦めて家へ帰ることにした。

 


 学校へ着き、授業中ずっとふりことどうやったら会えるか考えていたら、重要なことに気がついた。

 

 あの公園は俺の地元だ。もしかするとふりこと同じ中学校に通っているかもしれないと思ったのだった。

 

 昼休みになり、すぐさま各クラスのクラス名簿を確認していく……が、ふりこの名前はどこにも見あたらなかった……違う中学校だったのか? ましてや、名前を嘘ついたのか? いやいや、そんなこと考えちゃだめだ! やはり、会うためには早朝しか他はないようだった。

 


 深夜になり、もはや勉強なんか全然集中ができなくって、どうやったらふりこに会えるのか、そればかり考えていた。そもそもどうしてこんなにも会いたいと思うのだろう……非常に不思議な気持ちである。

 

 昨日は坂道に行き、いなかったからすぐに公園へ行った。もしかするとそれがよくなかったのかもしれない……今日は初日と同じように坂道をランニングしたりストレッチをしたりしてみよう。

 

 深夜を迎える……ここ毎日やっているせいか、家を無音で出るのはもはや得意になっていた。ジョギングで坂道へと向かった。今のところはふりこの姿はない。けど、これからが本番だ。初日と同じように準備体操に、ストレッチ、坂道のランニングを何本か行う……が、ふりこの姿は見あたらない……けれど、これはあくまでも前半戦。前回と同じ登場の仕方をしないだけかもしれない。

 


 最後の砦である公園へと向かう。今回もブランコの所にはふりこはいなかった……

 

 ブランコに乗って待ってみるが一向に来る気配がない。ただただ、鳥のさえずりだけが木霊している。

 

 ブランコに乗るのも随分と慣れてきていて、足をすることなく大きな弧を描くことができるようになっていた。だけど、それを見てくれるふりこの姿はない……明日こそは会えるといいな……

 


 次の日寝不足のせいか授業中眠くて眠くて仕方がなかった……

 

 休み時間になって水飲み場までやってきた。ひんやりとした静水がおいしい……そんな時、廊下を歩いている女子の話し声が聞こえてきた。

 

「っでさぁ……凄く怖いわけ……ブランコに……臓器動く感じ……それを狙っ……怖いよねぇ」

 

 ――何!? 後ろを振り向くとその女子は既にいなかった。

 

 ブランコ? 臓器? 狙う? どれも、あの日に経験した話に不思議と結びつく……うまく聞き取れなかったが話の内容としてはおおよそわかる。でも、それがふりこなのか……? そんなホラー映画とか出てきそうなのがふりこ……なのか?

 

 いやいや! 違うだろ! 何疑心暗鬼になっているんだ、俺は! それが本当かどうかなんて……実際に会って見なきゃわからないよな……でも前に会った時なんてそんな恐怖を覚える経験も、臓器を狙われている様な感じもしなかった。

 

 授業中、ずっと授業の内容が頭に入らなく、ふりこの事だけを考えていた。なぜこんなに考えるのかは未だよくわからない。けど、さっきの話、もし、本当だったとしたら俺はもうこの世にいないはずだ。俺は現に生きているし、そんなの狙われていない。もし、狙っていたら会えないことなんてきっとないだろうし……なんだか俺が疑心暗鬼になっていたのが馬鹿みたいだ。

 


 深夜になり、今日こそは会えますようにと、信じてもいない神様にお願い事をする。もし、神様がいるんならさ、いい加減会わせてくれよ。――そんな神頼みに走ってみた。

 

 やはり、坂道にはいない……昨日と同じ様に準備体操を行い、ランニングを始めた。

 

 そのまま公園へと向かった。公園にはふりこの姿はなかった。やっぱり神頼みに走ったって結果は一緒か……やっぱり一回会えたのは偶然だったのかな……

 

 ブランコに乗りただ、時間を潰す。来るかもわからない、約束すら交わしていない少女の為に……

 

 いい加減小鳥のさえずりにさえぼやきたくなってきた頃、妖精とも思える少女、ふりこがやってきた!

 

 俺は思わずブランコから飛び降りる。会いたくて、けど会えなくて、可能性を一つずつ潰して、ようやく会えた少女に会えた事がただただ嬉しかった。

 

「あ、隆一! 隆一!」

 

 ふりこは元気そうにこちらに手をぶんぶん振って近づいて来る……俺の名前を覚えていてくれたんだ……

 

「や、やぁ……」

 

 感動のあまりか、うまく話す事ができない……それを手助けするかの様にふりこは話始める。

 

「久しぶりだね! いつもランニングしたりしてるの?」

 

「まあ……ここ最近はね」

 

「へぇ~早起きが得意なんだね。私も朝が好きだから早起きしたいんだけど、気づくといつも登校しなきゃいけない時間に近いんだよぉ!」

 

 ある意味たまたま俺達は出会っていたようだ。でも、嫌いになって来なかったとかそういう理由ではなかったようでホッと胸を撫で下ろす。

 

「俺は早起きしてるわけじゃないよ。テスト勉強をする為に帰ってきてすぐ寝て深夜に勉強してるんだ。だから早起きではなくて勉強の気分転換みたいな感じなんだ」

 

「へぇ~勉強熱心なんだ。偉いね!」

 

「いやぁ……全然偉いとかじゃないよ……」

 

 なんだか褒めらて嬉しいと同時になんだか照れ臭い……

 

「今日はね、話さなきゃいけない事があって早起きを頑張ってきたんだ」

 

 話さなきゃいけない事……? 一体なんだろう……全く予想がつかない……

 

「ん? 一体どんなこと?」

 

「ぇっとね……」

 

 ふりこは落ち着いたテンションになり、話づらそうにもじもじしている……なんだかこちらも緊張してしまう……一体なんだと言うのだ……

 

「え、えっと……私ね、今度お父さんの仕事の都合で転校する事になっちゃったの……だから会うのが今回が二回目なんだけど、これが最後になっちゃう……の」

 

 ――なんと言う事だ……やっと、やっと会えたって言うのに……これが最後だなんて……

 

「だから……今日はね、お別れをしに会えるかなって思って公園に来たの。会えるかなんてわからなかったけど会えて良かったよ」

 

 俺だって会えたのは嬉しい。けど、その願いが叶ったところで悲報なんてあんまりだ……

 

「……そっか……残念だね……」

 

 もはやこれしか言葉が出ない。

 

「うん……」

 

 お互いに向かい合っているが、お互いに視線は落としたまま無言が続いた……

 

「転校……大変だと思うけど、頑張ってね」

 

 空気が持たなかった。気の利いた返事はできなかったがこれでも精一杯気持ちを振り絞った言葉だ。

 

「――ありがとう」

 

 そのまま、またお互い視線を落とす……もはやなす術もかける言葉も見つからない……

 

「――じゃあ、行くね! 隆一、勉強頑張ってね!」

 

「あ、うん。そちらこそ」

 

「じゃあね!」

 

 ふりこは来た時と同じ様にぶんぶん腕をふってバイバイしてくれ、次第に見えなくなった。

 

 俺はベンチへと腰をかける。夢が叶った。そこまでは良かった。けどそれと同時に強烈なショックを受けた。どうしようもなかった気持ちは目の前に転がっていた石ころにぶつけ、勢いよく蹴りつけた。蹴りつけた石は外灯ポールに打ち付け甲高い金属音を鳴らした。瞬時に草木に隠れていた鳥達は驚いた様子で飛び立って行く……

 

 俺はここにはもう用はないと思い公園を後にした。

 


 その後、テストの結果はもちろんのこと、結果は最悪だった。作戦練ったこの深夜勉強法は全く持って意味をなさなかった。

 

 テスト勉強中、なぜあそこまでふりこに会いたかったのか気持ちの整理を行ってみた。

 

 普通の友達と思える存在であればあの様な気持ちになる事はきっとない……だとしたらだ。これは俺自身の初恋だったのではないかと。

 

 けれども、会って話した時間は限りなく短く、会えた日にちはたったの二日。それも出会った日と別れた日。それなのに恋だったのかと思えば違う様な気もした。

 

 けれども恋がどんなものなのか、俺自身もよくわからない。が、結果として、ずっと毎日ふりこの事を求めた。それってやっぱり恋と言うものなのだろうか。理屈で考えれば納得できそうで、できない。でも、毎日ふりこの事を考えていた。

 

 初恋は成就しないと聞いた事がある。まさにそうだ、成就しなかった。何か行動して成就しなかったのならまだしも、会う事だけでも一生懸命で、自分の気持ちにさえ気づく事ができなかった。

 

 せめて、会える機会がもっとあって、自分の気持ちに気づけていたのならば……俺は告白する事ができていた、かもしれない。だからこそ、別れが早すぎたのが非常に悔やまれる……

 

 もしも、何かの偶然とかで会えたのであれば俺はその時気持ちを伝えたい! まぁそんな偶然、もはやあり得ないけれども……

 


 その後なんとか、高校へ進学する事ができた。本当になんとか……そんな感じだ。テストは相変わらず点数は悪く、内申点も良くなかった俺は推薦入試とは全くの無縁で、友人の合格発表の喜びを横目で見ながら一般入試のテスト勉強を行った。その結果、点数がいくつかはわからなかったがなんとか、高校へと進学する事ができた。

 

 一般的に高校へ入ったら入る時よりも入った後の勉強が大変と言うけれども俺はやっていけるのだろうか……

 

 でも高校はきっと希望も一杯だ。なにか素敵な出会いがきっとあるかもしれない……

 

 高校生活の第一回目のホームルーム。中学校の時とは違い、名簿でクラスの人間を読み上げて行く。いわゆる出席確認だ。中学校ではこの様な事がなかったのでなんだか新鮮に感じる。

 

 今回が一回目のホームルームと言う事もあり自己紹介を兼ねてゆっくりとした進行で行っていた。すぐに名前を覚える事はできなかったが新しいクラスメイトには興味があったので注目の眼差しで俺は眺めていた。

 

「では、次、加美北ふりこ」

 

 ふりこねぇ……最近の人は珍しい名前をしているもんだ……って、ふ……り……こ……?

 

 ガッ――と俺は場の空気を引き裂く様に椅子を押し、音を立てしまった。

 

 まさか、また運命のいたずら? それに名前は一緒とは……

 

 まさか、と思い顔を見てみる……ふりこだ……あの時から成長して少し大人っぽくも見えるがまだあの時の面影がしっかり残っている。

 

 授業が終わって休み時間になる。ふりこは他の女子と話していたが、俺はふりこの腕を掴み、廊下へと向かった。

 

「や、やぁ久しぶり。てか、手を引いて来てしまってごめん……」

 

「いいよ。私も隆一がいた事に驚いたよ。話せるタイミングがあれば話したいと思っていたからある意味ちょうど良かった」

 

 話を聞いてみると、お父さんの仕事が落ち着いて、また引っ越しをする事になり、ふりこは、またあの地に戻りたいと祈願して戻ってきたらしい。

 

 ふりこはこっちに帰ってきてから、早朝に公園へやってきたが俺はあの日以来ランニングをやめてしまっていたから出会う事はなかった。でも奇跡的に今こうして同じ高校に通う事になって再び出会う事ができたようだ。

 

 ――本当に神様ってやつは気まぐれで、いたずら好きな奴なんだと思った。

 

「でも、また会う事ができて良かった」

 

 友達に対して、ましてや異性に対して恥ずかしいセリフだったが、ふりこも……

 

「私も隆一に会えて嬉しいな!」

 

 どうやら気持ちは一緒だったらしい。

 

 今すぐに気持ちを伝える事はできないが、こうやって同じ高校に通う事ができたわけだ。ゆっくり時間を使ってもっとふりこと話そう。

 

 これからは焦る事もない。毎日会える。

 

 何より、時には運命に感謝し、時には運命を憎み、またこうして運命に感謝する事ができてよかった。

 

 ふりこにまた会う事ができて、本当に良かった……